不惑のアダージョ

おとなの女性の、本当のところ。まるでそれは、わたしの物語。

アラフォー世代ではなく、アラサー世代、アラフィフ世代――すべての女性たちに贈る必見の映画『不惑のアダージョ』が、ついに劇場公開する。2009年に製作された本作は、ゆうばり国際映画祭で初上映後、ロッテルダム国際映画祭タイガーアワード入選、ローマ国際映画祭など、数々の国際映画祭で絶賛され、観た者のあいだではすでに“伝説”として噂されてきた傑作だ。

本作がテーマとするのは、性、母と娘、恋愛、老い、など、女性たちが人生を生きるうえで必ず訪れる心身の変化。「女としてのターニングポイント」に直面して葛藤する、もはや綺麗事では済まない赤裸々な現実だ。

神に仕えるシスターという、一見、日本人にはあまり馴染みのない世界を扱いながら、むしろこの主人公は、今の日本社会に生きる、不器用な、恋愛にしても弱肉強食と自己責任の論理を余儀なくされる風潮から取りこぼされた、幾多のおとなの女性たちのリアルな象徴として映るだろう。
この映画は、自分を傷つける問題から逃避し、殻に閉じこもっていたひとりの平凡な女性が、ささやかな日常的冒険を通して、晴れやかな笑顔を手に入れるまでを描く、ある種の“成長物語”でもあるのだ。その女性としての率直な想い、真摯な告白が、上品なユーモアを交えながら、ヨーロッパ映画を思わせる繊細なタッチで、柔らかく格調高く描かれている。

監督は、かねてより短編で実力を高く評価され、今回が待望の長編デビュー作となる、井上都紀(いのうえ・つき)。短編『大地を叩く女』でゆうばり国際映画祭、2008オフシアター部門グランプリを受賞し、同映画祭の支援にて本作『不惑のアダージョ』を製作。余計な説明的描写を省いたソリッドな演出に、本物のエモーションを注ぎ込む独自の話法に魅了される者は後を絶たず、同業の映画監督や、映画評論家の応援者も数多い。確かな個性と技術と信念を持ち、同時に女性ならではの視点や感性をナチュラルに発揮する彼女は、真に注目すべき新鋭・若手監督のひとりだ。

そして主人公のシスターを演じるのは、アーティストへの楽曲提供でも知られる、ミュージシャンの柴草玲。劇中ではピアノやアコーディオンなど、あらゆる楽器を演奏し、本作の音楽も担当している。また、主人公が憧れるバレエダンサー役として、西島千博が特別出演。映画ではオリジナルのダンスを披露している。主人公の演奏と共に、繰り広げられるダンスシーンは圧巻。「こんなにロマンティックなバレエシーンは観たことがない」と、海外映画祭でも大好評を博した。

晩秋の美しい紅葉を背景に、情感豊かな音楽が一刻一刻と過ぎてゆく日常の時間を彩る。アダージョの緩やかなテンポで綴られる、過去日本映画では描かれることのなかった題材を、抒情的に映像化した、誰しもの心に染みる人間ドラマ。もちろん女性の問題は、女性だけの現実ではない。ぜひ男性の方にも観ていただきたい映画だ。(文:森 直人)

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© 2009 Autumn Adagio Film Committee